こんにちは、 ネクストモード株式会社 のSaaSおじさん久住です
今年もラスベガスで開催されたOktaの年次カンファレンス「Oktane 2025」が、熱狂のうちに幕を閉じました。
本記事は、個別のセッションレポートとは少し趣向を変え、毎年Oktaneで掲げられるテーマの変遷からビジネストレンドを読み解いていく、少し大人な「嗜み」をするブログです。
Oktane 2025の最新テーマを紐解きつつ、2022年からのテーマの変遷を振り返ることで、それぞれの言葉がどのような時代背景から生まれ、私たちのビジネスやテクノロジーに影響を与えてきたのかが見えてきます。この壮大な物語を一緒に嗜んでいきましょう。
パンデミックを経て、リモートワークが当たり前になった2022年。従来の「社内は安全、社外は危険」という境界型防御モデルは完全に崩壊しました。
この年、業界のトレンドとなったのが「ゼロトラスト」です。
この考え方の中心にあったのが、まさに「ID」でした。
アクセス元がどこであろうと信頼せず、すべてのアクセス要求を検証する。その唯一の拠り所が、ユーザーやデバイスの「ID」となったのです。
Oktaが掲げた「Identity Belongs To You」というテーマは、IDが個人のものであり、ビジネスとセキュリティの中心に据えられるべきだという力強い宣言でした。Auth0の買収を完了し、従業員IDから顧客IDまでを網羅するようになったOktaの戦略とも完璧に合致しており、IDが新たな「境界線」となった時代の幕開けを象徴するテーマでした。
2023年は「生成AI」の年でした。
ChatGPTの登場は世界に衝撃を与え、あらゆる企業がAIの活用へと舵を切りました。しかし、それはID管理における新たな課題の始まりでもありました。
従業員はどのAIを、どんなデータで使っているのか?(シャドーAIのリスク)
AI自身がAPIを叩き、他のシステムにアクセスする場合、そのAIのIDと権限はどう管理するのか?
「Go beyond with AI and Identity」というテーマは、AIという未知の領域へ「IDと共に」乗り越えていこうというメッセージでした。
AIを脅威としてだけでなく、ID管理を高度化させる味方としても捉え、異常検知などに活用していく。この攻防一体のアプローチが示された年でした。
AIの活用が進む裏で、サイバー攻撃はより巧妙化し、その矛先はID基盤そのものへと向かいました。
Active Directoryへの攻撃や、MFAを突破しようとするフィッシングなど、IDを窃取することが攻撃者にとって最も効率的な手段となったのです。
もはや「IDはセキュリティの一部」ではありません。「ID管理の堅牢性こそが、セキュリティレベルを決定づける」という認識が広まっていきました。
「Identity is security」。この非常にシンプルで、しかし本質を突いたテーマは、ID脅威検知・対応(ITDR)やフィッシング耐性MFAの重要性が叫ばれる時代の流れを完璧に捉えていました。IDを守ることが、すべてを守ることに繋がる。その確信が、この一言に込められていました。
そして、今年のOktane 2025。テーマは「AI security is identity security」です。
キーノートでCEOのTodd McKinnon氏が語ったのは、AIが単なるツールから、自律的にタスクをこなす「AIエージェント」へと進化を遂げた世界の姿でした。人間ではない「非人間ID(Non-Human Identity)」が爆発的に増加し、それらが機密データへアクセスし、意思決定を行うのが当たり前の時代です。
この広大で複雑なアタックサーフェスに対し、Oktaが打ち出した答えが「Identity Security Fabric」というアプローチです。これは、人間、アプリケーション、そしてAIエージェントといったあらゆるIDを、一つの統合されたセキュリティ基盤(Fabric=織物)の上で保護するという考え方です。
この構想は、Oktaが単にIDを管理するだけでなく、「AIそのものを信頼可能にするための土台」になるという決意表明に他なりません。AIのセキュリティは、結局のところ、そのAIのIDをどう管理し、どう保護するかにかかっているのです。
こうして振り返ってみると、Oktaneのテーマは一本の線で繋がっていることがわかります。
個人のID(2022) → AIとの共存(2023) → ID中心のセキュリティ(2024) → AI自身のIDセキュリティ(2025)
これは、テクノロジーの中心が人間からAIへと広がり、そのすべてを「ID」という概念が支えている壮大な物語です。
Oktaneのテーマの変遷を嗜むことは、ITトレンドの核心を理解することと同義なのかもしれません。
来年は一体どんなテーマが我々を待っているのでしょうか。この潮流の先に広がる未来に、今から期待が膨らみます!