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【Oktane25】セッションレポート: Turbocharged identity platforms, ready for AI | Nextmode Blog

作成者: yuki|25/09/26 8:46

はじめに

こんにちは。ネクストモード株式会社のゆきなわです。

現在、米国ラスベガスで開催中の Okta 社年次イベント「Oktane」(2025年9月24日〜26日開催)に参加しています。

Oktane 2日目となる9月25日に行われたブレイクアウトセッション「Turbocharged identity platforms, ready for AI」は、Uber 社と Sirius XM 社という巨大企業が、AI 時代を見据えていかに ID 基盤を刷新したか、そのリアルな道のりがパネルディスカッション形式で語られました。本記事では両社が直面した課題や成功の鍵、そして Okta が提唱する「Identity Fabric」のビジョンについてレポートします。

セッション概要

  • 日時: 2025年9月25日10:30〜11:00 (PDT)
  • タイトル: Turbocharged identity platforms, ready for AI
  • 登壇者:

    • Wei Fu, Director of Core Security Engineering, Uber

    • Sandeep Kumbhat, Head of Global Field CTO, Okta

    • Cory David, Director, IAM, Sirius XM

Uber のジャーニー:最高の強度と最小の負荷を求めて

Uber 社の Wei Fu 氏のトークからセッションは始まりました。同社が ID 基盤をモダナイズする上で掲げた理念は、「最も強固なアイデンティティを、最も負荷なく (least friction) 提供する」という、シンプルで力強いものでした。

Uber 社は、この理念を実現するため、Okta とのパートナーシップを深めてきました。当初の最優先事項は、グローバルな事業を支えるための「レジリエンス(回復力)」だったと言います。ダウンタイムが許されない本番環境で、Okta がいかに高い可用性を担保しているか、長時間のワークショップを通じて徹底的に確認したとのことです。

その結果、同社は全世界8万人以上の従業員が利用する ID 基盤を Okta へ移行し、1,000以上のアプリケーションを整理・統合するという大規模なプロジェクトを成功させました。Fu 氏は、AI を安全に活用するためには、まずこの「アイデンティティファースト」の基盤(ゼロトラスト、強固なアクセスコントロール)を確立することが不可欠であると強調。AI エージェントを人間と同様の「ファーストクラス市民」として ID 基盤に迎える準備が整ったと語りました。

Sirius XMのミッションインポッシブル: 自動化で実現した迅速な移行とAI活用

次に登壇したSirius XM 社の Cory David 氏は、自社の移行プロジェクトを「ミッションインポッシブル」と表現し、会場の関心を引きつけました。以前利用していた ID プロバイダーで20時間を超える大規模障害を経験したことから、「信頼性」「統合」がプロジェクトの最大の動機だったと語ります。

驚くべきは、その実行速度です。わずか2〜3人のチームで、365日以内に365以上のアプリケーションを移行。これを実現したのが、Okta Workflows や API を駆使した徹底的な自動化でした。アプリのオンボーディングプロセスを自動化・分散化することで、小規模なチームでも驚異的なスピードを達成しました。

さらに、Sirius XM 社は既に AI を実務で活用しています。IT ヘルプデスクの負荷を軽減するために Slack を利用した仮想 AI アシスタントを導入したほか、日々の会議の議事録をAIが自動で処理し、Jira チケットを更新するなど、具体的な効率化の成果を上げています。David 氏は、将来の高度なサイバー攻撃に対抗するにはAI には AI で対抗する必要があると述べ、AI 活用のビジョンを示しました。

解説: Okta が描く Identity Fabric の全体像

2社の事例を受け、モデレーターを務めた Okta の Sandeep Kumbhat 氏が、これらの成功を支える Okta のコンセプト「Identity Fabric(アイデンティティ・ファブリック)」について解説しました。

これは、IDガバナンス (OIG)、特権アクセス管理 (PAM)、セキュリティポスチャー管理(ISPM)といった機能を、個別のサイロ化された製品としてではなく、コアとなるID基盤から自然に拡張された、一枚岩の布 (Fabric) として捉える考え方です。

このファブリックの中心には、認証・認可ポリシーをわずか200〜300ミリ秒で実行する高速な「セキュアアクセスパイプライン」があります。このパイプラインを軸に、各種機能がデータ連携のオーバーヘッドなしでシームレスに動作し、セキュリティとユーザー体験の両立を実現します。

また、このファブリックは、人間やサービスアカウントだけでなく、今後急増する AI エージェントも新たな ID として取り込み、発見・保護・統治するための基盤となります。

おわりに

本セッションで紹介された2社の事例と Okta のビジョンからは、明確なメッセージが伝わってきました。それは、断片化したレガシーIDシステムこそが、企業が AI を安全かつ迅速に導入する上での大きな障壁になる、ということです。

Uber 社や Sirius XM 社の事例が示すように、AI 時代に備える第一歩は、自社の ID 基盤を統合プラットフォーム (Fabric) へと進化させることにあります。技術的ビジョンと、それを実現した具体的な成功例がうまく結びついた、非常に示唆に富むセッションでした。

引き続き現地からのレポートをお楽しみに!