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これからの会社でアイデンティティが重要となる理由 ~Identity Belongs to You~

ワインをこよなく愛するネクストモードの里見です。

今回は、これからの会社でアイデンティティが重要となる理由、ということを検討してみたいと思います。このブログでは、以下、3つの意味でアイデンティティという言葉を使っています。

  1. 他人と比べて揺るぎのない同一性を維持するアイデンティティ
  2. 自分らしさの表れである柔軟に変化するアイデンティティ
  3. ITシステムの認証・認可で用いられるアイデンティティ

最初に

若い頃に、「ありのままでいる」という言葉が理解できませんでした。「ありのままってなんだろう」と思っていました。自分にしかない価値とか、自分だけの特技とか、自分ならではのキャラクターとか、そんなものにこだわって、思春期の病に嵌っていたのかもしれません。自分の存在を証明するためには、他人と違っている特別なものがなければならないと思っていました。何時までも変わらない、普遍的な同一性が欲しかったのかもしれません。しかし、いまの若い方はもっと柔軟にアイデンティティを捉えているのではないかと、以下の会話で思いました。

仕事終わりの銀座で、金融系企業の入社2年目社員と話をする機会がありました。ピートの効いたウイスキーが好物で、ロックグラスを何度も空けながら、少し酔った頃合いにこんな話をしてくれました。

「会社に入ってからアイデンティティを築くのに時間がかかるから、夢中でやっている。経済学部の出身だったけど、入社してからエンジニアとなり、いまはコンテナでのシステム構築をAWSでやっている。自分らしい働き方を築くのに時間がかかるけど、それでも、高校の時まで理系だったから数学的な考え方は大好きで、努力をすれば、自分という存在に親しみのあるアイデンティティが得られる。だからこの仕事、楽しいです。」

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アイデンティティという言葉の使い方が、自分が若い頃のような気負ったものではなく、自分らしくあるためにシックリ感じられるか、といった等身大のものでした。会社にコミットするという気持ちも、アイデンティティという言葉の背後に感じました。また、この入社2年目社員は、学生時代のバンド・ツアーの話と、今の仕事にのめり込んでいった話を、同じ価値観で話していました。友達と会うときと同じように楽しく仕事がしたい、家族と過ごすときのように仲間を助けたい、父親に相談するように上司と話したい、そんな想いを素直に持っているようで、とても共感しました。

以下のパーソル総合研究所の調査によると、大学生が仕事を選ぶうえで重視することは、ここ数年「やりがいを感じられること」が30%を超えて最も高い数値となっています。やりがいを感じられる仕事とは、言い換えればアイデンティティが得られる仕事のことなのかもしれません。


企業におけるアイデンティティへの関与が変わってきた

これからは、個性を発揮するチャンスを望む人を採用したいと考える会社が増えてくるのではないでしょうか。日本の失われた30年間は、高度経済成長時代の成功体験から抜け切れず、個性を無くした均一な社員像を求めた企業がまだ多かったのではないかと思います。その結果、せっかく持っているその人の得意技を殺して、不幸な働き方を続けることになってはいないでしょうか。同質的な理想の社会人をアイデンティティとして求めてしまうと、終わりのない自分探しに陥りそうです。

例えばWEB会議で顔出しをしない会社の社員は元気がない傾向にあります。虚しくWEB画面に居並ぶ参加者の氏名はのっぺらぼうで、質疑応答も活発ではありません。その一方で、Slackの雑談部屋でジョークを言ったり、WEB会議で被り物をかぶったりするカルチャーの会社の社員は元気があります。リモートであっても、どこか存在感が感じられ、意見も活発にでます。もちろん、ふざければいいというものではなく、懇親会で一芸を披露するのが苦手な社員に強制しろ、と言っているのではありません。そんな強制は、これからのあたらしい働き方にそぐわないと考えます。

プロフェッショナルであることは、自分らしくあることがそのまま特技の発露になること、楽しむこと、型を破ること、なのだと思います。それがユニークなビジネスを生み出す源泉です。自分の居場所を求めて、会社の中でそれぞれのスキルを磨くことが、働く意味やアイデンティティの獲得に繋がります。

もちろん、会社の中には型通りにやることを好む人も必要でしょう。すべての人が変わり続けることを求めているわけではないと思います。しかし、そんな人は、変わっていこう、やってみようとチャレンジする人を邪魔してはいけません。会社は多様な人間で成り立っているほど成長します。スーツを着て同質性を求める時代は終わったのではないでしょうか。

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映画『ガタカ』を通じて考えるアイデンティティ

『ガタカ』は、他人になりすまして夢を追い求める青年が主人公の映画で、私が最も好きな映画です。近未来のアメリカ社会を舞台に、遺伝子工学の発展によって人間の遺伝子情報が社会的地位に影響を与えるようになった世界を描いています。映像が素晴らしく、もう10回以上観ました。

主人公のヴィンセントは、デザイナーベビーが当たり前となった時代に、人工授精と遺伝子操作を行わない子として生まれます。彼は遺伝子情報に欠陥がある「不適正者」として差別され、社会的地位も低いまま生きていました。そこでヴィンセントは、夢を叶えるために、健康な遺伝子情報を持つ「適正者」の血液や体液等の生態情報をブローカーを通じて購入し、火星行きの宇宙船の飛行士を目指します。

主人公は、清掃職員をしながら、周囲が反対して無理だと言われても、人知れず身体を鍛え、宇宙について学び続けます。そして、遺伝子検査をかいくぐって夢を掴みます。ついに彼は宇宙船で飛び立ち、「適正者」が支配する地球の価値観を覆すことに成功します。

この映画は、大好きな宇宙への憧れを実らせるために、自分の能力を信じ、努力することの尊さを扱ったものです。アイデンティティは、生まれながらの属性に縛られて生きることから解放されて、自ら獲得するものであることを教えてくれます。それは、「There Is No Gene For the Human Spirit」という、この映画ポスターに書かれたメッセージからもわかります。

このヴィンセントの歩みは、孔子の天才は努力する者に勝てない 努力する者は楽しむものに勝てない=知之者不如好之者、好之者不如之者」という教えに通じています。ヴィンセントは天才である「適正者」に対して、努力をし、宇宙を楽しみながら飛行士を目指しました。やりがいを持てない清掃作業の隙間時間で、いつか抜け出す日を夢見て闘った時は、振り返って眺めた地球のように、美しく見えるのだと思います。

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Ivanpah Solar Electric Generating System

Identity Belongs to You

これまでGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazonの4社)がここまでビジネスを拡大できた要因のひとつに、売り切りの製品ではなく、顧客のアイデンティティを製品や広告のレコメンドに活用してきた点にあります。しかし、そのアイデンティティがひとたび漏洩してしまえば、インターネットにおいてあなたのアイデンティティはあなたのものではなくなってしまう可能性があります。SNSのアカウントが乗っ取られて、馴染の友人が知らない誰かに成り代わったメッセージを受け取った経験はないでしょうか?

最近ではディープフェイクによる画像や音声のなりすましがはじまっていて、アイデンティティ管理はより重要になっています。ディープフェイクの技術によって、本物かどうかわからないほど巧妙にアイデンティティを合成できるため、外見や声色はあなたにそっくりなものになります。以下の記事では、IDを盗み、なりすましたユナイテッド空港の社員が逮捕されましたが、将来は眼差しや声色まであなたになりすました犯罪が登場するかもしれません。

安心してアイデンティティを獲得し、やりがいのある仕事環境を作るためには、ITのシステムとしてもアイデンティティを大切に扱わなければなりません。そのためにこれからの会社は、なにをしなければならないのでしょうか?

「色は匂へど散りぬるを 我が世誰ぞ常ならむ」鴨長明

会社の中でのアイデンティティはその人の成長と共に変わります。「我が世誰ぞ常ならむ」ではないですが、仕事も変われば役割も変わるし、最終的には誰でも会社を去っていくことになります。働くものにとって、アイデンティティは絶え間なく変化し、一瞬たりとも同一性を保てないものと言えます。しかし、情報システムとしては、部署が変わろうが、アクセスできる権限が変わろうが、その人をその人として、同一のものとして認証しなければなりません。

さらに言えば、認証するだけでなく、どのシステムにアクセスしても良いのか、どのフォルダにどんな権限でアクセスできるのか、そんな認可の仕組みも、社員のアイデンティティの変化に合わせて整えなければなりません。社員がその人らしく働くために、社員それぞれに寄り添った認可の仕組みが、その人の変化に合わせてスムーズに行われなければ、働きにくくて仕方ありません。その人が変わるだけでなく、つい昨日まで咲いていた花が散る時代は、「色は匂へど散りぬるを」にあるごとく、変化が早いです。そんな社会の動きにも追随しなければなりません。

この情報システムでの自己証明を容易にすることで、会社の中でアイデンティティを発揮しやすくなります。以下のブログでまとめたように、OktaではIdentity Belongs to Youというフレーズを新しいブランド戦略として打ち出しています。このIdentity Belongs to Youという短いフレーズの中に、これからの企業がどのようにアイデンティティを扱っていくべきかが込められている気がします。

 会社はこれまで以上に、社員ひとりひとりのアイデンティティに寄り添った働き方を実現できるように、働く環境を整えていかなくてはなりません。クラウドの柔軟性は、変わらないなにかを追い求めるのではなく、変わり続けるところにアイデンティティがあることを教えてくれます。仕事の拠りどころが地位や肩書きではなく、それぞれの社員が自分らしく居られる職場環境、そんなやりがいのある会社をクラウドで創っていきたいものです。

最後に

ひとりひとりがその人らしく働けるクラウドの仕組みは、Oktaの導入ではじめることができます。アイデンティティ管理を通じて、「ありのままの自分」で安心して働くことができる、そんな環境をクラウドで創っていけると信じています。これからも「クラウドであたらしい働き方を」世の中に広めていきたいと思います。

紹介しているOktaの導入相談は、こちらからお願いします。