はじめに こんにちは、 ネクストモード株式会社 のきうちです
サパの山小屋から──デジタルデトックスのすすめ
日本酒をこよなく愛する里見です。2020年に会社を立ち上げて以来、年間100日を超える日々、旅をしながら働いています。クラウドネイティブな会社だからこそ、いつでもどこでも働けるのはありがたいです。
今回はベトナムのサパで黒モン族の家にホームステイしています。旅の目的は、お世話になっているシャーマンの息子:ボイヤンが建てた山小屋へのトレッキングと農作業の手伝い。貴重なデジタルデトックス体験だったため、記録として残しておきます。
黒モン族の家族と一緒に朝ごはん。めちゃくちゃ美味しいです。
ボイヤンのバイクに二人乗り。かなりスリルがあります。
トレッキングの前日、自家製の米焼酎を作りました。まさか、これがリュックに入っているとは!
出発:標高2,000mの出社──バイクと獣道と、ボイヤンの背中
朝09:00。まずは標高1,000mのボイヤンの家から、バイクに2人乗りで1,500mの姪っ子の家へ向かいます。
そこからは自分の足で、未整備の山道をひたすら登ります。黒モン族のボイヤンは慣れたもので、すたすたと歩いていきます。ここで置いていかれたら確実に遭難だ......と思い、必死に後を追います。
2,000mの山頂を超えて、さらに1,698mまでの獣道を3時間。日本の登山道でいえば、上級に分類されるコースだと思います。
ひたすら未整備な獣道を歩きます。
ボイヤンは英語が話せないので、身振り手振りで「会話」をします。
曇の上からの景色は最高です。1,000mの眼下に広がる村々。
途中の水場で頭から水を被りました。ボイヤンは湧き水を飲んでいましたが、自分は、、、
足場はグチャグチャで泥だらけになります。
スマホの電波はゼロ
山の中でも仕事ができるように、当日の朝にeSIMを買いました。
しかし、あまりにも深い山の中で、まったく電波が通じません。
SlackもDocuSignも、まして生成AIも沈黙する森の中で、半ば強制的に“デジタルデトックス”に突入です。
Asana のレポートによれば、日本のナレッジワーカーの 66% が「過去6か月で少なくとも一度は通知をオフにする、休暇を取る、デバイスを再起動するなどの“デジタルデトックス”を実施した」と回答しています。
https://asana.com/ja/resources/state-of-work-innovation-japan



ボイヤンの「職場」で考える、仕事とツールの距離感
背丈を超える藪をかき分けるたび、棘がジャケットを裂き、蜘蛛の巣が顔に張りつきます。
「ベトナム戦争の地雷、残ってないよな……」と思わせるジャングルです。小さな見晴台でボイヤンが用意したバインミーとコーヒー、忘れられない味でした。絶景の中、休憩中も会話はゼロ。電波がないので翻訳アプリも使えず、会話はボディーランゲージのみ。
お互い、ひとりごとなのか、相手に話しかけているのか、わからない言葉を時々発します。
知っている単語は、美味しいという意味の「ノーカンキョ」だけ。少しは黒モン族の言葉を勉強しておけばよかったです。
そこから1時間ほど歩くと、森の奥にブルーシートのブッシュハウスが突然現れました。川沿いに畑を切り開き、ブラック・カルダモンを育てるボイヤンの“職場”です。彼にとってはここがオフィス、自分は今日だけオフラインです。
ボイヤンの「職場」であるブッシュハウス。石積も含めてひとりで作ったとは思えない立派な小屋です。


焚き火とヒルと、山のごちそう
到着後は竈で火を起こします。現場で伐採した竹を焚き付けに使います。その後、川に行って食器や鍋を洗います。葉をちぎってスポンジ代わりにして、ゴシゴシと洗うと、意外と綺麗になります。どの葉っぱがスポンジの代用で、どの葉っぱが食用なのか、自分にはさっぱり見分けが付きません。
ご飯、豆スープは川の水で調理。豚の干し肉は目の前に生えている山菜を刻んで油で炒めます。この肉がめちゃくちゃ美味しい。ご飯ができるまで1時間30分ぐらいかかったでしょうか。
食後はボイヤンの畑へ。ベトナムではタオクアと呼ばれている、ブラックカルダモンを採ります。1時間ほど道なき道を歩いて、ヒルに3箇所刺されました。痛くはないですが、少し跡が残ります。長靴や洋服に付いていたヒルは、20匹ほど。取り忘れたヒルが長靴の中にも何匹か居ましたが、ボイヤンと笑いながらお互いの身体を確認し合いました。「ボイヤン、ボイヤン!」と呼んで、身振りでヒルのチェックをお願いします。不思議と通じるものです。
葉っぱを使って鍋を洗います。意外と綺麗になります。


小屋の中は8畳ぐらいの土間と竈があって、意外と広いです。
ブラックカルダモンは湿地帯に地面から生えています。
収穫した若いブラックカルダモンは、スライスしてマリネにします。
“通知ゼロ”が生む、五感の解像度
夕食は、昼の残りに加えて、竹で挟んだ「焼き豚」や焚き火で燻した薫製も作りました。
調理の待ち時間を使って寝床も準備。土間の上に細い板を敷き、使い込んだマットとゴザを重ねます。心配だったダニも、ビニールマットでカバーをして快適に。
夕食はビールで乾杯からスタート。ペットボトルを削った手作りのコップがまた味わい深い。
食事の最中も会話はなく、ふたりで居るのにひとり内面を見つめる奇妙な時間。耳を澄ますと聞こえてくるさまざまな虫の音。ボイヤンは暗闇でも歩けるほど森を知り尽くしてますが、自分は見知らぬ森の夜に包まれています。お互い、別々の世界を見ています。でも、どこかで2人は繋がってます。スマホの翻訳も、時にはないほうが深く繋がれるのかもしれません。
暗くなってくると、風鈴のようなリンリリン、リリンッという虫の音がします。川の音に混じって虫の音が聞き分けられます。何もすることがないので、音に集中するのでしょう。ボイヤンはのんびり水タバコを吸ってます。時々肌に触れる昆虫や蛾も気にならなくなり、すべてが心地よくなってきます。スマホをデトックスして開いていく感覚なのでしょうか。虫のオーケストラに包まれ、立体音響の中に居るような感覚です。
電波も会話もなく、ただ耳と肌で世界を感じていると、脳のタブ切り替え音が静かに止まっていきます。スマートウォッチの着信が震えるたびに散らかっていた集中力が、ここでは一本の焚き火の炎のように、揺らぎながらも切れません。誰にも邪魔されず、スマホのメモ帳でこうしてブログを書くのもいいものです。

豚肉、豆のスープ、炒め物、ブラックカルダモンのマリネで乾杯です。あまりに美味しくて、下山後にマリネの調味料を買いました。

右側はハッピーウォーターと呼ばれる自家製の米焼酎。
土間に板を敷き、その上にゴザを敷いた簡易的な寝床。不思議とよく眠れました。
ビジネス視点で見るデトックスの効能
Asanaのレポートでは、こうした“オフライン時間”が、生産性の税金とも呼ばれる「再集中コスト」を下げる鍵だと指摘しています。通知の山に埋もれていると、フォーカスを取り戻すのに20分以上かかることもあるそうです。
ネクストモードでは、 Netskope や Okta で「どこでも働けるゼロトラスト」を整えながらも、ツール起因の“つながり疲れ”には、 Asana のメッシュ化されたワークフローで対抗しています。しかし、本当にクリエイティブな発想や経営判断を生むには、ツールを閉じ、自然の音楽に身を置く時間も必要なのだと、今回の旅で感じました。

Asanaのレポートより抜粋引用
朝起きると、カタツムリが屋根の上で休んでました。
朝日に照らされたバンブーハウス前の樹々。緑と川のせせらぎに癒されます。
翌朝 05:00、土砂降りの下山
昨日と打って変わって雨となりました。
獣道には川のように水が流れていて、ドロドロです。長靴にも水が入ってきて、ちゃぷちゃぷと音を鳴らしながら歩きました。
苔むした岩で滑り、ヒルにまとわりつかれながら、なんとか姪っ子の家へ戻りました。
数え上げれば30匹以上のヒルを引き剝がしました。
姪っ子の家で昼食を取り、再びバイクで1,000mのボイヤンの集落へ戻ると、電波が一気に復活。スマートウォッチに未読の通知が弾けます。でも不思議と “すぐ返信しなきゃ”という焦りはありません。身体のどこかに、あの虫のオーケストラの余韻が残っていたのかもしれません。
朝食は昨晩の残り物とポテトを炒めて食べました。デザートのフルーツまでありました。

土砂降りの中の下山後、姪っ子の家の子猫に癒されました。
旅のあとがき
テクノロジーを最大限に活用する会社ほど、ときどき「オフラインの時間」が必要なのかもしれません。
今回、ボイヤンの山小屋で強制的に体験したデジタルデトックスは、当初は「不便さ」ばかりが目につきました。しかし、スマホの通知が途切れ、タスク管理ツールもチャットも沈黙したとき、ふと心の中に静寂が訪れました。
五感が開かれ、自然の音が鮮やかに聞こえるようになり、焚き火のゆらぎに意識を集中することで、“ひとつのことに没頭する感覚”がよみがえってきました。都市部では忘れがちな「深い集中状態」──いわゆる“フロー”に入る体験です。
また、アイデアの質や創造性も明らかに変わります。電波の届かない環境では情報の洪水から解放され、自分の内側にある記憶や直感と向き合う時間が生まれます。そうした“内省の時間”が、日々の業務を相対化し、新たな視点を生み出すと思います。
そして何よりも、幸福感や睡眠の質が高まりました。夜になると虫の音に耳を傾けながら、余計な思考が静まり、すっと眠りに入ることができる。これも、通知ゼロの静けさがもたらした恩恵でしょう。
ネクストモードは、Netskope や Okta によるゼロトラストな環境構築を通じて「どこでも働ける自由」を支えています。AsanaやNotionなどのSaaS群が、分散されたチームをつなぎ、業務を見える化しています。しかし一方で、ツールに頼りすぎた働き方では、本来の創造力や判断力を奪ってしまう危うさもある──それを体感したのが今回の旅でした。
ツールの向こう側にある「静寂」や「自然」を、時には自らの意思で選び取ることで、働き方の質が変わります。帰ってきたあとのパフォーマンスに、きっと違いが表れます。
これからも、自分なりの“ボイヤンの山小屋”を見つけながら、「クラウドであたらしい働き方を」追い求めていきたいと思います。
