シリコンバレーのコミュニティに学ぶ、日本のテックコミュニティの立ち回りについての考察【足で情報を集めてきたシリーズ】
こんにちは、ホワイトバードです。
先日、サンフランシスコ&シリコンバレーへ出張に行ってきました。先のブログ記事(知らないことを知る シリコンバレー出張vol.2【足で情報を集めてきたシリーズ】)にもあるようにカンファレンスイベントへの参加が目的ではないビジネスミーティングを中心とした出張でしたので多くを語ることはできないのですが、シリコンバレーのコミュニティに触れていく中で少しだけ考えたことをまとめたうえで、日本のテックコミュニティの立ち回りを少し考えてみたいと思います。
シリコンバレーのコミュニティの概要
シリコンバレーというと「先進的」「優秀な人材が多数集まる場所」などのイメージがあるかもしれません。これは行く前も行った後も変わりませんでした。そうしたコミュニティイメージが形成される際に、どのような歴史があったり、実際に触れてみた感想を少しまとめます。
シリコンバレーのコミュニティの成り立ち
シリコンバレーのコミュニティの成り立ちは1920年代のスタンフォード大学までさかのぼります。フレデリック・ターマン氏が、学究の世界と地元企業とを結びつけて学問と産業の双方で優れた成果を上げる戦略を考えるようになったことがきっかけになります。1934年にヒューレット・パッカード社の創業者となる、ビル・ヒューレット氏とデイブ・パッカード氏がスタンフォード大学を卒業後、2週間のキャンプを経て仲良くなり、その後フレデリック・ターマン氏の勧めにより1939年に「ヒューレット・パッカードカンパニー」をパロアルトに設立したことで、この地が「シリコンバレーの発祥の地」と呼ばれるようになります。
その後フレデリック・ターマン氏が1951年にスタンフォード・インダストリアル・パーク(現スタンフォード・リサーチ・パーク)を開設(https://stanfordresearchpark.com/)し、大学の土地をハイテク企業にリースする画期的な仕組みを作りました 。これが大学と産業界の共生モデルの原型となります。
同年には「オナーズ・コーポレーティブ・プログラム」も始まり、企業の正社員が在職しながらスタンフォードで大学院学位を取得できる制度が生まれました。学費はダブルで企業が負担するというモデルで、産学一体の人材循環が制度化されました 。
その後、トランジスタの共同発明者ウィリアム・ショックレー氏がマウンテンビューに「ショックレー半導体研究所」を設立し、その後ウィリアム・ショックレー氏のやり方に反発した8人(通称:反逆の8人)がスピンオフして設立したフェアチャイルド・セミコンダクター社が親会社となり、「フェアチルドレン」と呼ばれるインテル社やAMD社といった会社が多数あり、大企業からのスピンオフ、コミュニティによる起業といった文化が形成されてきました。(参考記事:https://www.axion.zone/the-traitorous-eight/)
こうした起業文化が芽生えると、ニューヨークの金融街から資金調達をしていただけではなく、シリコンバレーにクライナー・パーキンス社などのベンチャーキャピタルが設立され、コミュニティには産官学連携だけではなく、金融面でも盤石の態勢が整えられるようになります。
その後、PC・インターネット・SaaS・スマートフォンなどのディスラプター(破壊的イノベーション)が産業構造を塗り替えるとともに、これらの企業の創業者の多くがスタンフォード大学またはカリフォルニア州立大学バークレー校の卒業生となり、彼らが再び母校に戻って教鞭をふるい、次の起業家を育てる循環が続いています。
※PIXAR社の初期のコンピューター(当時はハードウェアも制作していた):コンピューター歴史博物館
シリコンバレーのコミュニティの関係者の整理
これらの歴史を踏まえて、シリコンバレーのコミュニティの関係者とその役割を整理します。
| 関係者 | 主な役割 |
| 大学 | 新技術の研究・開発、次世代人材の育成 |
| スタートアップ企業 | 新ビジネスのPMF、ビジネスモデル構築 |
| ベンチャーキャピタル | スタートアップ企業への投資 |
| 大手企業 | 新ビジネスの拡大・展開支援、自社ビジネスとの融合(買収) |
| 技術者コミュニティ | 技術活用・スピンオフ検討 |
これらの関係者が多くのイベントや交流の場で知り合い有機的に連携を行い、新たな事業が生まれる構図が出来上がっています。また、統計によると、シリコンバレーは愛知県ほどの広さに約300万人、約130万人が就労しているとのこと。
※Waymoの中からコンピューター歴史博物館。運転手不在で無人運転の信号待ち。歴史と最新テクノロジーのコラボレーション
シリコンバレーのコミュニティに触れた感想
ビジネスミーティングの中で、これらのコミュニティの関係者に触れてきました。3つほど感じたことを並べたいと思います。
Give First/Pay it Forwardの文化
非常に優秀な人材が多く集まるコミュニティのため、たいていのことは自身で行うことができます。したがって、コミュニティの外から来た人間の場合、「何ができるのか?」「タッグを組むと何ができるのか?」を求められることになります。「勉強させてくれ」といったテイカー気質では相手にされません。非常に厳しい一方で、もし自身や所属する組織が「これが得意である」ということを示すことができれば、多数の信頼を得ることができるようになりそうです。そしてその中で得た知見や利益を次の世代につないでいくことで、コミュニティの発展に寄与することが出来上がっているように思えました。
圧倒的な好奇心、知見と先見性
VCのアナリストや、テック企業のマネージャーといったいわゆる非エンジニア層においても、最新技術への知見や好奇心は日本の多くのエンジニアを超えているように思いました。ただ「知識として知っている」だけではなく、実際に触って困ったこと、それを踏まえて何に取り組んでいるかの言語化と、まだ製品化されていない技術へのアプローチは卓越したものと思いました。AWSのアップデートをただ口を開けて待っているだけでは、とても太刀打ちできるものではないという印象を持ちました。
地理的・文化的近接性によるコミュニティ間の近さ
シリコンバレーのエリアに多数の企業やコミュニティがあることで、こうしたコミュニティ間の情報館や人的交流も盛んな印象を受けました。ある企業へ訪問した際に、前日にお会いした企業の方の話となり盛り上がった、なんてこともありました。
※マウンテンビューのコワーキングスペース"Hacker Dojo"。隣にWaymo社やGoogle社があり、未来のラリー・ペイジ氏/セルゲイ・ブリン氏を目指す起業家・エンジニアが集まる
日本のテックコミュニティの現状
現状、日本企業や日本人がシリコンバレーの中心であるかどうかはあまり語りませんが、
シリコンバレーの日本企業が陥る、10のワーストプラクティス からするとあまりうまくいっていない印象をうけます。本記事が執筆されてから約10年が経過し、日本でも東京大学松尾研究所発のスタートアップ企業や、ネクストモードのように大企業からのスピンオフといった事例が出てくるようになり、JAWS-UGや日本PHPユーザ会といった技術者コミュニティが盛んになってきました。
一方で、経済産業省の資料(スタートアップ政策について)によるとユニコーン企業にまで成長した企業は7社であり、決して多くはありません。まだまだ日本のテックコミュニティが進化する余地は大いになると考えられます。
日本のテックコミュニティの立ち回り方
ここから日本のテックコミュニティがどう立ち回るかを考えたいのですが、私自身は大学関係者やVC所属ではないのと、企業方針について不確定なことをここに書くことはできないのでこれらへの言及は避けます。あえて言うなら社長の里見にはもっとシリコンバレーに出張してもらってシリコンバレーでのプレゼンスを上げてもらい、新たな協業先をたくさん増やしたい、というくらいにします。(そのためにもっと頑張ります)
以下は個人的な意見となりますが技術者コミュニティについての提言をここにまとめたいと思います。
関係者間の橋渡しとしての存在感の向上
現状、日本におけるテックコミュニティは、各関係者・役割内でのコミュニティに閉じている印象です。例えば、大学では大学の研究室間、スタートアップ企業同士の共創、企業エンジニア同士の交流といったものが主になります。スタートアップとVC・大手企業の間は交流がありますが、一対一の関係性が中心で複数対複数の関係性や「懇親会で偶然出会った二人が会話していた翌日に起業していた」ような関係性には至っていないのが現状です。したがって、技術者コミュニティにおいても、企業エンジニアだけではなく、VCや大学の研究室といった異なる役割との交流の場を作っていく必要があります。先日行われた「Tech Challenge Party」ではソフトウェア企業の経営者 、企業のエンジニア、ユーザーコミュニティが普段の役割の垣根を越えて参加していましたがこうした橋渡しを担うように設計していく必要があります。
「ユーザーコミュニティ」から「ビルダーコミュニティ」への進化
技術者コミュニティにおいても、AWSやGoogle Cloud、Netskopeといった単一の製品の事例を共有する場だけではなく、課題を起点として複数の製品や技術を組み合わせた場への進化が必要だと考えています。課題を解決している場であると認知を受けることで、次世代の投資先を検討するVCや大手企業が参入して共創を生み出すことができれば、「なんでコミュニティに参加しているの?」といった素朴な疑問への答えを用意することができると思います。
Give First/Pay it Forwardの定着
技術者に限らず、コミュニティの基本はGive First/Pay it Forwardですが、コミュニティを起点として日本のテック企業にGive First/Pay it Forwardカルチャーを根付かせることが大事です。そのために必要なことは3点あると思っています。
- 企業からのスポンサードの獲得(経営者やVCへの意識をおこなう)
- 失敗の共有(失敗は恐れることではないという文化)
- 初学者の参入障壁の撤廃(次世代の育成)
既にお知らせの通り、ネクストモードはJAWS Days 2026へランチスポンサーとして参加しますが、こうしたスポンサードも通じて、日本のテックコミュニティの拡大に寄与していけるものと思います。
まとめ
シリコンバレーのコミュニティについて書籍や見聞きした話で知っていたこともありましたが、実際にシリコンバレーで活躍する方々を見て、確信したことと新たに得た学びも多くありました。知識として知っていることと、実際に体験したことには大きな差があり、今後も体験を大事にしながら、知見をたくさんの方に共有できるようにしていければと思います。
※なお余談すぎますが、今回の出張でだいぶ体重が増えてしまったので、しばらく控えめ&カロリー消費に努めたいと思います。