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ワーケーションの通信環境:2025年版
日本酒を愛してやまない里見です。2020年にネクストモードを立ち上げて以来、「仕事」と「旅」を交差させる暮らしが始まりました。気づけば年間100日以上を旅先で過ごすようになり、いまではパッキングのひとときすら旅の一部のように感じています。
この5年間で振り返ると、通算1,000日ほどをワーケーション先で過ごしてきました。その中で、通信環境の整った場所もあれば、ホテルのWi-Fiが心もとない地域や、そもそも回線がどうにもならない国もありました。日本国内ならSIMを2枚持っていれば大抵なんとかなりますが、世界はそう単純ではありません。旅は偶然性が面白いですが、通信環境だけは「偶然」に任せると仕事に支障がでることがあります。
そこで今回は、NTT東日本の子会社の社長を務める立場として、自らの経験をもとに「どんな準備をすれば安心して旅先で働けるのか」を、価格・技術に分けて考察してみたいと思います。
サンフランシスコで自動運転車のWaymoにて。アメリカは国土が広いため、繋がらないエリアも多いです。また、通信会社によって速度がまちまちです。
イタリアのシチリア島でのワーケーション。海を見ながらの仕事は快適で、ネットワークも高速でしたが、日本との時差がやばくて、仕事が辛かったです。
後楽園でワーケーション。3面ディスプレイは重たいですが、仕事の効率はとてもあがります。通信速度は問題なかったです。
結論から
・旅慣れた人向けの中級編 → eSIM複数運用、VPN切替、ファイアウォール付きルーター
最終的に大事なのは「回線は必ず死ぬ」という前提で、冗長性(複数)+逃げ道(オフライン対応や場所移動)の2レイヤーをセットにしておくことです。以下、それぞれの対策をシーンに合わせて記載します。



出発前の仕込み編
旅先での通信トラブルは、ほとんどの場合「準備不足」から生まれます。現地に着いてから慌てて対処するのではなく、出発前にどれだけ仕込んでおけるかが勝負です。私もワーケーションを1,000日以上やってきて、何度も「やっておけばよかった…」と後悔してきました。だからこそ、いまは出発前の仕込みを徹底しています。
たとえばアメリカ。中国製の端末を持ち込むとSIMそのものが認識されないことがあります。逆に中国製のSIMカードを使うと、ChatGPTやSlackなど一部のサービスにアクセスできないこともあります。さらに安さに惹かれて買った中国製SIMは、インターネットの出口が中国にあるせいで速度が極端に落ちることも。観光用のSIMであれば「ある程度繋がればいい」と割り切れますが、働くことを考えて適切な対策を取る必要があります。
※観光で海外に行く場合、とりあえず繋がればいいというレベルの通信環境で良ければ、Klook等で非常に安価に購入できます。
また、移動中の命綱になるのがオフラインマップです。Google MapsやMaps.meを事前にダウンロードしておけば、ネットが死んでも迷子にならずに済みます。同じダウンロードでも、Amazonプライムビデオを日本国内でダウンロードしておくのは定番ですが、国によってはジオブロック(地域制限)がかかります。ベトナムで痛感しました。現地でネットに繋いだ瞬間、「このタイトルはご利用いただけません」と表示され、長時間移動のお供が消えるので注意です。
だからこそ、準備は多層的に。
価格: ★★★★★(無料)/技術: ★★☆☆☆
現地用サブ端末(安価なAndroidなど)
価格: ★★☆☆☆(端末購入)/技術的容易さ: ★★★★★
オフラインマップDL(Google Maps, Maps.me)
価格: ★★★★★/技術的容易さ: ★★★★★
価格: ★★☆☆☆/技術: ★★★☆☆
価格: ★★★★★/技術: ★★★☆☆

ベトナムのサパでのワーケーション。ジャングルに囲まれた黒モン族の宿「Surelee Homestay」は、通信回線は高速です。モバイル通信も安定していました。黒モン族の家でのホームステイはこのブログ、黒モン族との山小屋トレッキングはこのブログでまとめています。サパでのワーケーションはこのブログ、ベトナムへの費用はこのブログでまとめています。


現場での冗長化戦術
ワーケーションで現場に到着した後、まず最初にやるのは「冗長化をどう組むか」です。ここを怠ると、肝心な会議の時間にネットが止まってしまい「観光客モード」に強制突入する羽目になります。楽しいけれど、仕事は進まない。だからこそ、複数の通信経路を持っておくことが命綱になります。
特に意識しているのは「通信会社を分散させる」こと。たとえばマルチキャリア対応のポケットWiFi(クラウドSIM型)は、エリアによって最適な回線を自動で掴んでくれる優れものです。正直ちょっと高いですが、いざという時に「繋がらない絶望」を回避できると思えば保険料のようなものです。
最近は、GoogleFiのコストパフォーマンスが気に入っています。世界中で高速な通信を自動的に利用でき、なおかつ比較的安価。これに日本のpovoや現地プリペイドSIMを組み合わせると、デュアルeSIM+物理SIMの三枚体制が完成します。移動が多い自分にとっては、かなり安心感のある布陣です。
さらに、PCでの通信が「遅いな」と感じたら、スマホやタブレットのWiFiを切断して帯域を分散しないようにします。意外とこの小さな工夫でWEB会議の音声が安定したりするんです。最後の切り札は「人間ロードバランサー」戦術。仲間同士でテザリングをし合えば、どちらか一方がダウンしても仕事は止まりません。まさにチームプレーです。
価格の安さ: ★★★☆☆/技術的容易さ: ★★★★★
地域特化型eSIMアプリ(Airalo, Ubigi)、現地eSIMショップ即日契約
価格の安さ: ★★★☆☆/技術的容易さ: ★★★★★
マルチキャリア対応ポケットWiFi(クラウドSIM型)
価格の安さ: ★★☆☆☆/技術的容易さ: ★★★★★
価格の安さ: ★★★★★/技術的容易さ: ★★★★★
テザリング仲間戦術(人間ロードバランサー)
価格の安さ: ★★★★★/技術的容易さ: ★★★★☆



低速回線時の仕事術
どんなに準備をしていても、旅先やワーケーション先では「今日はやけに遅いな……」という瞬間が訪れます。ホテルの回線が混んでいたり、山間部でモバイル電波が細っていたり。そんなときに「もう今日は無理だ」と諦めてしまうか、「遅いなりに工夫して仕事を進める」かで、ワーケーションの快適度は大きく変わります。
1:1(高画質):上り1.2Mbps、下り1.2Mbps以上
グループ会議(720p):上り1.0Mbps、下り0.6Mbps
CPU負荷はやや高めですが、設定を落とせば帯域が細くても音声は意外と粘ります。
■Google Meet
グループ会議(720p):上り1.0Mbps、下り1.3Mbps
低速環境でも音声が安定しやすく、総じて「堅実な印象」。私の体感でも最も落ちにくいツールです。
■Microsoft Teams
グループ会議:上り2.5Mbps、下り4.0Mbps
他ツールに比べるとやや大食い。帯域が潤沢な環境向きですが、画質や音質の安定性は抜群です。
私がよく頼りにしているのが Speedify というツールです。仕組みはシンプルで、WiFiとモバイル回線を同時に束ねて“合体回線”を作り、速度や安定性を底上げするというもの。Meetの音声がプツプツ切れるようなときでも、これをオンにすると滑らかに戻ってくれるので、本当に助かっています。しかも2GBまでは無料。とりあえず入れておいて損はありません。同じ系統の技術に Connectify もありますが、どちらも「帯域をかき集めて束ねる」という発想が面白く、私はこの手の技術が大好きです。
価格の安さ: ★★★☆☆/術的容易さ: ★★★☆☆
価格の安さ: ★★★★★/術的容易さ: ★★★★★
Meet/Teams/Zoomの帯域軽量化モード
価格の安さ: ★★★★★/技術的容易さ: ★★★★☆
オフライン同期(GoogleWorkspace, Notion)
価格の安さ: ★★★★★/技術的容易さ: ★★★★☆


北海道の標茶町の「THE GEEK」。サウナが併設されていて、窓からは湿原と列車が見えます。ネットワークはとても速かったです。
セキュリティと安定性
ハードウェアを持ち歩くのは正直、少し大変です。しかし「ここぞ」という場面で活用できれば、効果は絶大です。大人数が集まるカンファレンス会場や空港のラウンジでは、WiFiの同時接続数が増えることで通信が不安定になりがちです。そんなときに有線LANアダプタを挿す、あるいは小型ルーターをかませることで、驚くほど安定することがあります。
最近のお気に入りは、GL.iNet USB GL-MT300N-V2(通称Mango)。重さ40g以下という超小型サイズながら、しっかりルーターとしての役割を果たしてくれます。さらに、この小型ルーターの配下に自分専用のWiFiを作れば、NAT(Network Address Translation)によってネットワークが分離され、セキュリティレベルも自然と向上します。もちろん初期設定のパスワードは必ず変更してから利用するのが鉄則です。
とはいえ、小型ルーターや有線LANといった工夫だけでは限界があります。特に海外での作業や、社外ネットワークを利用する場面では「どんな通信環境からでも安全にアクセスできる仕組み」が不可欠です。
ここで威力を発揮するのが、NetskopeとOktaです。
Netskopeの強み:従来のVPNでは「暗号化はできるけど通信が遅くなる」という悩みがありました。大量のデータを扱う業務やオンライン会議が多いリモートワーカーにとっては、これは大きなストレスです。Netskopeはクラウドを前提としたゼロトラスト・ネットワークを実現するため、通信速度を落とさずにセキュリティを担保できます。ユーザーや端末の振る舞いをリアルタイムで検知するため、不審なアクセスを自動で遮断してくれるのも大きな安心材料です。
Oktaの強み:一方で、IDと認証の側面を守ってくれるのがOktaです。多要素認証(MFA)や、ジオロケーションによるアクセス制御によって、「本人だけがログインできる環境」を構築します。パスワードが漏れても、SMSや認証アプリで本人確認が必要になるため、不正ログインのリスクは大幅に減少します。特に旅先で様々なWiFiに接続する状況では、この「二重三重のロック」が真価を発揮します。
NetskopeとOktaを組み合わせれば、「どんな場所からでも安全に、そして快適に働ける」環境を整えることができます。VPNのように速度を犠牲にする必要もなく、仕事のリズムを保ちながらセキュリティも担保できるのです。
価格の安さ: ★★★★☆/技術的容易さ: ★★★★★
価格の安さ: ★★★☆☆/技術的容易さ: ★★★★★
価格の安さ: ★☆☆☆☆(高額)/技術的容易さ:★☆☆☆☆(企業導入前提)
Okta導入(ID管理・多要素認証)
価格の安さ: ★☆☆☆☆/技術的容易さ:★☆☆☆☆(企業導入前提)
VPN複数契約(ExpressVPN, Mullvad)
価格の安さ: ★★☆☆☆/技術的容易さ: ★★★★☆
※海外で忘れがちな小ネタ:海外でクレジットカード決済やログイン認証をする際、SMSでの二段階認証が必要になるケースがあります。日本の番号宛に届くSMSを受信できないと、カード決済やサービスの利用が止まってしまう可能性も。出発前に「自分のSIMが海外でSMS受信可能か」を必ず確認しておくと安心です。
北海道の鶴居村にある「FOX&CRANE Cabin」。冬はマイナス20度を下回りますが、雪景色を見ながら快適に仕事ができました。ネットワークもとても速いです。鶴居村でのワーケーションはここで詳しく紹介しています。
沖縄の那覇のゲストハウス「THE KITCHEN HOSTEL AO」。1泊4,000円ほどのリーズナブルな宿ですが、ネットワークがとても快適でした。
スリランカは全体的に通信速度が遅かったです。ホテルは高いところと安いところで、そんなに通信速度が変わらず、むしろ高いところの方が遅かったです。また、停電でネットワークも一緒に落ちることがあり、仕事するには厳しい環境です。
最後に
通信環境が整えば、旅もワーケーションもただの「移動しながら働く」時間ではなく、新しい発見や学びを生む豊かな体験に変わります。海辺のカフェで波音を聞きながら議論を交わすこともあれば、山間の古民家で自然に囲まれながら資料をまとめることもある。安定したネットがあるだけで、風景はそのままインスピレーションへと変わり、働き方そのものがカルチャーになります。
今、「どこでも働ける」という自由は一部の特権ではなく、多くの人にとって当たり前の選択肢となりつつあります。それは単なる利便性を超えて、人の創造性を引き出し、チームの文化を豊かにするものです。働く場を自分で選び、心地よいリズムで集中できる環境を整えることは、まさに新しい人権とも呼ばれる価値観なのです。
こうした文化を支えるのが、クラウドを基盤としたゼロトラストの仕組みです。Netskopeは通信を遅延させることなく保護し、Oktaは本人確認を徹底することで「正しい人が正しいリソースに」アクセスできる世界をつくります。これにより、旅先でもオフィスでも、自宅でも変わらない安心感のなかで仕事を続けることができます。
小さな工夫と確かな基盤。この二つが重なったとき、ワーケーションは単なる働き方のオプションではなく、「新しい働き方の文化」として定着していくはずです。
ネクストモードは、その文化をともに広げていきたいと考えています。私たちは「クラウドであたらしい働き方を」を旗印に、日本の生産性をもっと高めていくことを目指しています。自由で安全な働き方を通じて、一人ひとりが持つ可能性を最大限に解き放つこと。その先にこそ、日本全体の働き方のアップデートがあります。
皆さまの旅と仕事が、これからもっと自由に、もっと創造的に広がっていくことを願っています。そしてその実現に向け、ネクストモードは変わらず伴走していきます。お気軽にご相談ください。
39gの無線LANルーターGL.iNet USB GL-MT300N-V2(通称Mango)。NAT機能により公衆WiFiと自分の端末を分離でき、セキュリティが向上します。弱い電波を中継して部屋の隅でも安定接続でき、さらに有線LANポートを備えているため、古いホテルやコワーキングのLAN口に差し込めば同時接続制限の影響も回避可能です。VPNクライアント機能をルーター側で動かせるので、接続するPCやスマホはVPN設定不要で安全通信が実現できます。